民泊新法徹底解説

民泊新法徹底解説

空き家、空き部屋等を住宅を旅行者等に有料で貸し出しする、いわゆる「民泊」についてルールを定める「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が2017年6月9日参議院本会議で与党と民進党等の賛成多数で可決、成立しました。

これまでの民泊は、旅館業法上の許可が必要であり、同法の許可を得ずに営業すると「無許可営業」となるのですが、住宅宿泊事業法では、都道府県知事(保健所のある自治体は市町村長)に住宅宿泊事業者として届け出をすることにより、年間営業日数180日を上限として宿泊サービスを行うことができるようになります。

民泊業界のみならず、新たな投資対象として不動産業界からも熱い視線を注がれていますが、同法の内容について解説していきます。

民泊新法成立の背景

住宅宿泊事業法の制定の背景として、急増する訪日外国人観光客のニーズや大都市部での宿泊需給の逼迫状況等に対応するためで(ホテル不足、数万件に及ぶ無許可営業の民泊業者の増加)、訪日外国人旅行者数は2012年の836万人から2016年現在2000万人を超えていますが、政府は2020年までに4000万人を目標に掲げています。

もちろん、外国人旅行者の消費による経済効果を期待したものでもあり、消費額についても2016年現在3.7兆円から2020年までに8兆円を目指しています。

住宅宿泊事業法の概要

1. ハード面(施設)の要件

提供される建物の用途は住宅、共同住宅、寄宿舎などとされました。

既に実証実験として先行して実施されている特区民泊の考え方を多く取り入れており、通常の住宅の整備が要求され、キッチンや洗面設備のない事務所や車庫等は認められません。

民泊事業を営む事業者(つまり、ホストになろうとする者)は、提供する住宅の図面を添えて保健所への届け出が必要となります。

2. ソフト面(事業者)の要件

事業・事業者の要件は、住宅宿泊事業法で3つの柱で構成されています。

①住宅宿泊事業に係る届出制度

民泊つまり宿泊サービスの提供は、この法律では、「住宅宿泊事業」と定義されますが、この事業を営もうとする場合、都道府県知事への届出が必要となります。

しかし、それでは、旅館業法と全く変わらないため、年間提供日数の上限は180日とされています。

つまり、半年以下の営業制限が課されています。

なお、新法は届け出をして事業を営む人を「住宅宿泊事業者」、委託を受けて管理する者を「住宅宿泊管理業者」と規定しました。

住宅宿泊事業者が届け出した住宅に居住しながら事業するとき(いわゆるホームステイ型)は、住宅宿泊事業者=管理業者になりますが、居住していない家主不在の住宅を利用する場合は、他の管理業者に委託しなければなりません。

②住宅宿泊管理業に係る登録制度の創設

前述のとおり、家主不在型の住宅宿泊事業者に対し、住宅宿泊管理業者に住宅の管理、事務処理を委託することを義務付けられますが、この委託者(いわゆる代行業者)については、「住宅宿泊管理業者」と呼ばれます。

住宅宿泊事業者への契約内容の説明等、住宅宿泊管理業の適正な遂行のための措置を義務付けられ、民泊の運営代行業務の厳格化・適正化を目的として、住宅宿泊管理業者は国土交通大臣の登録制となり、また罰則もありますから、管理者は行政の管理下に置かれることにより、いわゆるモグリの代行業者は排除されることとなります。

③住宅宿泊仲介業に係る登録制度の創設

これまで法律の定義がなかった Airbnb や HOMEAWAY などの仲介サイトの運営者は、宿泊者と住宅宿泊事業者との間の宿泊契約の締結の仲介をする事業として、新たに住宅宿泊仲介業と定義され、当該事業を行う業者は、「住宅宿泊仲介業者」として定義され、観光庁長官の登録制度が創設されます。

観光庁長官の登録により、国の管理下に置かれ、住宅宿泊仲介業の適正な遂行のための措置(宿泊者への契約内容の説明等)を義務付けられます。

同時に、仲介業者(予約サイト)を管理・情報提供を求めることにより、180日の日数制限等の厳格な運用を実現しようというものです。

3. 管轄権

法律の管轄は、厚生労働省、国土交通省とその外局である観光庁です。

事業の直接の管轄は、国土交通大臣と各都道府県知事(保健所を有する政令市、特例市長、区長等)に
なります。

(手続き・申請先のイメージ)

ただし、実質的な監督権については、旅館業法同様に各保健所となると見込まれます 。

今後の予想

住宅宿泊事業法は、早ければ来年から施行され、合法民泊の法制度として効力が生じます。

しかしながら、同法には 180 日の宿泊日数規制(条例によりさらに短縮される可能性あり)があるため、本格的なビジネスとしてこの法律を利用するためには、一定の工夫が必要で、通常の方法では、空き部屋活用、賃貸管理としての手段の増加等、副業や賃貸住宅の補完の域を出ない制度といえます。

したがって、本格的に宿泊サービスを提供しようという場合、事業として利益を確保する場合は、やはり、緩和傾向にある「旅館業法」や国家戦略特区で実施されている「特区民泊」が第一の選択肢となってきます。

住宅宿泊事業法の施行伴い、賃貸住宅管理業者や投資物件大家、別荘保有者、投資家など新たなプレーヤーの民泊業界への参入が見込まれますが、今後は、”投資や副業”と”本格的な、限りなくホテル旅館に近い民泊”の2極化していく傾向にあると思われます。

執筆者紹介

藤野慶和

ふじの行政書士事務所
行政書士

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