コロナ禍が争点となった各種裁判例(不動産、その他)

コロナ禍が争点となった各種裁判例(不動産、その他)

私は日頃から、不動産関連の案件を取り扱う機会が多く、2020年以降は、不動産をめぐるコロナ禍固有の法的問題に多数直面しました。

この経験を踏まえて「コロナ禍を理由とする賃料の減額請求等」と題する拙稿を執筆し、金融法務事情№2176(2021年12月25日号)巻頭の「OPINI論」に載せて貰いました。

本コラムでは、拙稿の「続編」という位置づけで、掲題の裁判例を幾つか採り上げます(下記①~⑤は、コロナ禍を争点とする各種主張のロジックを、類型別にナンバリングしたものです)。

東京地判令和3年5月26日(公刊物未登載)

賃借人からの①借地借家法32条に基づく賃料減額請求において、拙稿の題名どおり「コロナ・・の影響により経済情勢が変動した」旨、賃料減額要因として真正面から主張された事案です。

裁判所は、「コロナ・・の影響により・・賃料額が不相当になったと認めることはできない」とし、理由も述べずに当該主張をアッサリ排斥して、請求を棄却しました。

東京地判令和3年7月20日金融・商事判例1629号52頁

賃料不払いによる契約解除後の建物明渡請求訴訟において、飲食店を営んでいたテナントから、利益減や緊急事態宣言の発出を理由に、「コロナの影響により、貸室を賃借人に使用収益させる債務が消滅したため、賃料支払債務も消滅した」旨が主張され、解除の効力が争われた事案です。

②危険負担の法理(民法536条)に基づいており、①とともに②も賃料額を争う方法の一つです(私も、某案件で相手方から②の主張を受けました。)。

裁判所は、「賃貸人が貸室の使用を制限していた事情は窺えないうえ、緊急事態宣言の発出によって貸室が使用不能になったと評価することもできない」と判旨し、テナント側の主張を認めませんでした。

東京地判令和3年9月27日判例時報2534号70頁

緊急事態宣言の直前に結婚披露宴をキャンセルした者において、支払った前受金のうち解約料相当分が相殺されて返還を受けられなかったため、ウェディング業者に返還を求めた事案です。

③不可抗力によって婚礼を実施できなくなった旨の主張のほか、予備的に、④業者側が感染防止措置を怠ったという債務不履行や、⑤事情変更法理も主張されましたが、裁判所はいずれの主張も排斥し、返還請求を認めませんでした。

東京地判令和3年11月29日労働判例1263号5頁

コロナ禍によって売上減となったホテル経営会社が、ホテル従業員の時短や休業によって対応していたところ、休業手当に未払いがあったとして従業員が支払請求をした事案です。

会社側は、そもそも③不可抗力による休業だったと主張して争いましたが、裁判所は、労基法26条に定める「使用者に帰責事由のある休業」だったとして、未払分の休業手当の請求を認容しました。

以上を俯瞰しますと、裁判所は良くも悪くも、一貫して、コロナ禍を賃料減額要因や不可抗力事由などとは捉えていない傾向が見て取れます。

よって、①~⑤いずれのロジックによっても、例えば不動産の賃料額を法的に争うのは難しそうです。

反面、休業措置等によって従業員の支給額が随分と減らされたようなケースでは、未払分の請求が裁判所で認められるかもしれません。

本コラムが少しでも参考になれば幸いです。

今回の執筆者

金田繫

弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所
弁護士

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