再開発と建物賃貸借の更新拒絶・解約の正当事由

再開発と建物賃貸借の更新拒絶・解約の正当事由

はじめに

高層ビルの新築等を目的とした再開発のためには、事業用地上の建物の賃貸借契約を終了させる必要があります。

建物賃貸借契約の更新拒絶・解約は、借地借家法28条に基づき、①賃貸人及び使用人による建物使用の必要性、②従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況、⑤財産上の給付(立退料)を考慮した正当事由が要件となりますが、狭義の自己使用でない再開発の場合には認められるのかを近時の東京地裁判決から見てみます。

民間企業による再開発の場合

東京地裁平成24年8月28日判決は、老朽化による建替えの必要性がない建物を取り壊し、オフィスビルを新築して被告を除外した程度の面積で賃貸する再開発計画に対して、殆ど空室になっている建物全体の使用状況も考慮して、本件賃貸人の建物使用の必要性に準じることを肯定しました。

ただし、再開発という一方的事情によることから、借家権価格の評価も勘案して、1400万円(賃料2年分)の立退料と引き換えに解約の正当事由を認めました。

また、東京地裁平成24年8月27日判決は、中高層ビルが建ち並ぶ地域において、築後50年を経過し、震度5強以上の地震に対する耐震性が低く、耐震補強工事及び保全改修工事の費用が不相応の高額となる建物(殆どの退去が完了)を取り壊し、周辺土地を含む敷地にビルを新築する大手不動産会社の再開発計画に、借家権価格の一部を含む769万円の立退料を補完要素として、解約に正当事由を認めました。

東京地裁平成22年1月29日判決では、昭和56年施行新耐震基準以前の設計(昭和42年築)で防災上問題のある建物を取り壊し、平成10年導入の「新しい銀座ルール」に基づき緩和された容積率等を活用して立て替える再開発のための解約に、原告の借家権価格評価による3230万円の立退料と引き換えに正当事由を認めました。

都市計画による再開発の場合

都市計画法による市街地再開発事業等の場合には、対象地域内の土地や建物の占有者は最終的には強制的退去になりますが、その前に、任意に建物賃貸借を更新拒絶・解約で終了させるためには正当事由が必要となります。

東京地裁平成25年9月17日判決は、東急東横線の相互乗り入れのために渋谷駅周辺が都市再生法に基づく都市再生緊急整備地域において、都市再生特別地区の都市計画決定が公示され、高層ビル等の建築が予定されていた場合に、老朽化が進んでいた地上建物を取り壊して周辺土地と一体とした敷地に高層ビルを新築する再開発計画に合理性を認め、正当事由を肯定しています。

ただし、賃貸人が新ビル内の権利床を取得すること(合意によるもの)に基づき、一定の借家権価額を加算した立退料と引換給付を条件としています。

まとめ

このように見ますと、再開発は、都市計画によるものか否かを問わず、広義の自己使用に該当するとの判断は定着していますが、他の要件(防災上の問題点、退去による建物の使用状況等)も合わせ考慮して正当事由の有無が判断されますし(特に民間会社による場合)、借家権価格も判断要素にした相当の立退料支払いが条件となると考えておく必要があります。

今回の執筆者

沖隆一

沖総合法律事務所
弁護士

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