オフィスや店舗の賃貸において定期建物賃貸借契約が広く普及していますが、借地借家法の条文上、必ずしも明らかでなく判例上もまだはっきりしない点や、法律の条文には書かれていないけれども判例によってルールが示された事項など、注意が必要な点があります。
そこで、定期建物賃貸借契約において注意すべきポイントをいくつかみていきたいと思います。
1.期間の定めが明確であること
定期建物賃貸借契約書において、契約期間を定める必要があるというのは当然のことではありますが、注意が必要です。
例えば、契約期間を「開店日から2年間」とするといった定期建物賃貸借契約書を見かけることがありますが、これですと、契約書上で賃貸借期間が明確になっていないので、定期建物賃貸借契約と認められない(普通建物賃貸借になる)おそれがあるという考え方がありますので注意が必要です。
2.バックデートで契約書を締結することは厳禁
普通建物賃貸借は、書面でなく口頭での契約(合意)でも成立します。
他方、定期建物賃貸借契約は、書面で契約しなければなりません。
そうすると、例えば、定期建物賃貸借契約を締結するつもりで、書面で契約を締結する前に、借主に先に使用・収益を開始させて、その後、定期建物賃貸借契約書を締結しようとした場合、借主が使用・収益を始めた時点で普通建物賃貸借として契約が成立したと評価される可能性があると言われています。
一般論としても、バックデートで契約書を作成することは好ましいことではありませんが、定期建物賃貸借契約においては厳禁といえます。
3.書面を交付して事前説明する必要がある
定期建物賃貸借契約を締結するときは、あらかじめ、借主に対して、契約の更新がなく期間満了により賃貸借が終了することを書面を交付して説明しなければなりません。
この事前説明は、契約締結と同じ機会に行ってもよいとされていますが、契約締結よりも時間的に先立って行わなければなりません。
また、この借主に交付すべき「書面」ですが、これは、契約書とは別の独立した書面でなければならないとするのが判例ですので、注意が必要です(最判平成24年9月13日)。
4.賃料不増減特約
普通建物賃貸借においては、原則として、貸主及び借主に賃料増減額請求権があります。
そして、「賃料を一定期間増額しない」という特約は借主にとって有利なものであり、借地借家法上も有効ですが、それ以外の賃料改定に関する特約がなされた場合には、後日、実際に賃料額が不相当な状況になったときには、貸主による賃料増額請求も借主の賃料減額請求のいずれも可能となります。
これに対して、定期建物賃貸借契約においては、客観的に明確な内容であれば、賃料増減額請求に関する特約は有効となります。
例えば、「契約期間中、賃料を改定しない。」という特約は有効ですし、「賃料は○年毎に○%ずつ増額する」という特約も有効であり、そのとおりの効力が生じます。
実務上は、前者のような、賃料を改定しないという特約はしばしば見られるところかと思います。
5.契約終了の通知
定期建物賃貸借契約において、契約期間が1年以上のときには、期間満了の1年前から6か月前までの間に、貸主から借主に対して、期間満了により契約が終了するという通知をしなければなりません。
契約期間が1年未満の場合には、この通知は不要です。
この通知は、法律上は口頭で行っても構いませんが、この終了の通知をしたことは貸主が証明しなければなりませんので、通常は書面で行われ、トラブルが予想されるようなケースでは、内容証明郵便で送ることも考える必要があります。
なお、この終了の通知は、定期建物賃貸借契約の再契約を予定している場合でも必要ですので、注意が必要です。
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関口総合法律事務所
弁護士