認知症になると銀行口座は凍結されるのか(後編)

認知症になると銀行口座は凍結されるのか(後編)

前編では認知症になった場合の不動産売買取引について触れた。

元銀行員としての肌感覚と、今回この記事を執筆するにあたり、いくつかの金融機関に匿名で問合せしてみたところによると、「成年後見人を立てないと口座のお金は凍結します」といった強硬な姿勢をとる金融機関はそう多くないと感じる。

少なくとも、私が問い合わせた金融機関にはなかった。

ある金融機関は「元気なうちに代理人カードを作っておけばATM限度額内でご家族が引き出せますよ」と言ったり、また別の金融機関では「まとまった資金の出金でも老人ホームなどに直接振込みするなど、使途が明確なものに関しては、成年後見人なしに家族が手続きできますよ」と言ったり。

金融機関の担当者は日々、日報を書くが、本人との会話から「家族間にトラブルがないこと」を当時の担当者が聞いており、本人が認知症になった後にまとまった資金を出金したいときは、戸籍などで推定相続人を特定し、その全員が銀行に対し「今後、銀行に対し迷惑をかけない」旨の念書を提出することなどで、まとまった現金出金ができたという話も耳にする。

ただ、これは銀行の社内規定として一律に定められていることではなく、支店責任者が都度個別に判断しているものと思われ、銀行との蜜な関係が築けていた稀なケースと思われる。

成年後見人が選任されると口座の名義を「A 成年後見人 X」(A=本人の名前、X=成年後見人の名前)と変えたり、銀行内部の手続きもいろいろと煩雑であり、銀行担当者にとっては面倒だったりする。

まとめ

銀行の預金(金銭債権)は、銀行⇔顧客 間の個別の関係での取引であるのに対し、不動産は、売主⇔買主 間の個別の関係での取引ではあるものの、不動産登記という国の公示制度があり、かつ、ここに携わる宅地建物取引士や司法書士は定められたルールを守らなければならず、常に懲戒になるリスクとの隣り合わせだ。

こと不動産取引においては、制度が良くも悪くも整備されすぎているため、「状況を総合判断してOKとしました。」といった逃げ道はない。

現在は、認知症のための制度として成年後見、家族信託(民事信託)、任意後見などがあるが、どの制度を使うかは、「仮に認知症になった場合に、その後に動く資産が①日々の生活費&医療費だけなのか②施設入所用のまとまったお金か③不動産か④その他まとまった現金出金が必要なのか」といった観点で考えたい。

施設に入所し、自宅を売却した後も成年後見人でないとできない手続きがどれだけあるか。

実は、自宅売却を終えてしまえば、銀行の代理人用キャッシュカードさえあれば支障がないケースも多いのではないかと思う。

目的から認知症対策を考えたいものである。

今回の執筆者

鈴木美穂

鈴木美穂司法書士事務所 代表司法書士
宅地建物取引士
1級ファイナンシャル・プランニング技能士

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